月経前症候群(PMS)・月経前不快気分障害(PMDD)と漢方

2019年1月28日

PMSと漢方

月経前症候群(PMS)・月経前不快気分障害(PMDD)と漢方

 西洋医学での定義・診断・治療

月経前症候群(PMS)と月経前不快気分障害(PMDD)の定義・原因

日本産科婦人科学会でPMSは「月経前、3〜10日の黄体期のあいだ続く精神的あるいは身体的症状で、月経発来とともに減退ないし消失するもの」と定義されています。それに対して米国精神医学会は「単なる精神疾患の悪化でない、月経前に繰り返される気分変調」を月経前不快気分障害(PMDD)としています。PMDD は抑うつなどの精神症状を伴う最重症型の PMS として位置づけられています。特に精神症状が重いのがPMDDです。

生理のある女性の70〜85% は黄体期から月経にかけて何らかの症状を自覚しますが、5〜10%は実際に治療が必要とされる重症 PMS・PMDDであると言われています。

原因ははっきりとはわかっていません。黄体期の後半(生理の前)に黄体ホルモンが急激に下がることで脳内ホルモンや神経伝達物質の異常を引き起こすと考えられています。

参照 日本産科婦人科学会雑誌64巻9号N-117

代表的な症状

図1

MSDマニュアル プロフェッショナル版より改変

症状はひとつとは限らず、同時に複数現れます。イライラ、のぼせ、下腹部膨満感、下腹痛、腰痛、頭重感、怒りっぽくなる、頭痛、乳房痛、落ち着きがない、憂鬱の順に多いとされています。特に精神症状が強い場合には、絶望感や自殺願望が現れることもあり、PMDDと診断されます。

分かってもらえないという苦しみ

多くの女性が経験しているPMS・PMDDですが、男性の認知度はわずか1割程度。生理痛の認知度が7割を超えるのに対し、認知度が低いのが現状です。6割近くの女性が、周囲に理解してもらえずストレスに感じています。(2012 年 PMS(月経前症候群)*に関する男女の意識調査

診断・治療

診断は、問診やアンケートでの評価が中心です。他の疾患を否定するための血液検査や経腟エコーを行うこともあります。PMDDに関してはより厳密な診断基準があります。

治療に関しては、日本産科婦人科学会のガイドライン上、カウンセリング・生活指導や薬物療法(精神安定剤、利尿剤、鎮痛剤、漢方等)を選択することが推奨されています。また、低用量ピルを使うことを考慮することも勧められています。

 

PMS・PMDDで処方される薬の例

図1

産婦人科診療ガイドラインー婦人科外来編2017より改変 

ただ、原因がはっきりとわかっていない以上、これらの薬物は対処療法であるといえます。

また、同ガイドラインでは根拠がないとしながらも漢方薬を証に合わせて使うことも明記されており、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、加味逍遙散、桃核承気湯、女神散、抑肝散を挙げています。

中医学での原因

婦人を見たら肝病を疑え

中医学では、体内を肝・心・脾・肺・腎という5つのグループに分けて考えます。解剖的な内臓としての意味だけでなく、人体の働きや機能を5つに分類したものです。この五臓は、お互いに助けたり(相生)、抑制したり(相克)しながらバランスを保っており、それが乱れることで体調不良や病気になると考えます。

 

五臓_img

 

「肝」は五行論では「木」の性質があり、血を蔵し、全身の流れをつかさどっています。精神情緒の活動を調節したり、気や血を通じさせる作用があるのです。のびのびとしているのが好きですが、一方で塞ぎ込みやすいという性質もあります。

子宮は「血海」という経絡の集合している場所とつながっています。字の通り、生理周期によって血が海のように満ち干きします。中医学では生理や妊娠などの異常は血海の異常と考えます。

肝は血を蔵してその分布にも関わっていますので、血海とも非常に深い関係です。肝の伸びやかさが失われ気血が滞れば、血海にも影響が出て、生理などの異常につながることがあります。また、生理前の血海は満ちているときに、パンパンに張って緊張しがちです。そうすると、肝の伸びやかさが失われ、精神情緒へ影響が出たり、全身の気血が滞ることで様々な不調が出てくるのです。その際、鬱々とした肝から熱が発生することがあります(肝鬱化火)。その熱がのぼせとして現れたり、他の臓、経絡へ波及して症状が出ることがあります。そして生理が始まり血海が空になるとその緊張は解け、症状はなくなっていきます。

また、肝は胃腸とも関係しているので(相克)、生理周期によって食欲が増減したり、お通じが不安定になったりすることがありますし、乳房痛なども胃腸と肝の経絡の連絡がうまくいかずに起こります。心とは相生の関係ですので、その関係に影響が出ると、動悸や不眠、判断力低下、パニックなどの症状が現れることがあります。

高名な中医学の先生の中には、「婦人をみたら肝病を疑え」や「肝は女性の先天だ(女性の本質は肝にある)」と言った方もいるほど、女性の健康にとって「肝」は非常に重要なのです。

中医学での治療

「肝」が原因ではありますが、肝の不調がどこにどのように起こっているのかによって使う漢方は様々です。大きく実証・中間証・虚証タイプに分けて、代表的な漢方を一部ご紹介します。

実証

<桃核承気湯> 血の滞りが強く、のぼせ、イライラ、動悸、便秘、生理前にシミが濃くなる。

<通導散> 血の滞りが強く、桃核承気湯より気の滞りが強い方。

<大柴胡湯> 気の滞りが強く、肝鬱化火がある。膨満感、イライラ、悪心や胃の痛み。

<黄連解毒湯> 熱を冷ます処方。のぼせやほてり、イライラ、充血、不眠、鼻血。

中間証

<桂枝茯苓丸(加薏苡仁)> 血の滞りがある。腫瘍がある場合にも。冷えのぼせ、下腹部痛。

<柴苓湯> 小柴胡湯+五苓散。肝鬱化火があり、水分も滞っている方に。血を補うものがないので、血虚には単独で用いない。

<芍薬甘草湯> 引きつりや、引きつるような痛み、痙攣に頓服で使用。

虚証

<加味逍遙散(合四物湯)> 気血が虚しているものの、肝鬱化火。お通じが不安定(緊張などで便秘や下痢になるなど)など肝脾不和がみられるもの。

<女神散> 気血が虚していているものの、気の滞り、肝鬱化火。便秘。

<柴胡桂枝乾姜湯> 神経を安定させる作用がある。肝鬱化火。不安感、焦燥感、不眠、動悸。

<抑肝散(加陳皮半夏)> 少し気血が虚しているものの、歯ぎしり、めまい、痙攣、不眠。

<加味帰脾湯> 胃腸が弱く、気血が虚しているものの、不眠、不安、動悸など。出血傾向。

<当帰芍薬散> 血が不足しているために血行不良になっているものの、冷え症、めまい、むくみ、生理不順など。

<(柴芍/香砂)六君子湯> 普段から胃腸が弱く、下痢をするもの。また、食欲の低下しやすいもの。

 

漢方で改善した実例

人格が変わるほどひどかったPMDDが数ヶ月で軽減

31歳。人から憧れられる、そして、夢中になれる仕事ゆえに、いつも全力投球。休みなく働いていました。体調管理も気をつけているし、健康に関する勉強もしているのに・・・。そんな頑張り屋の女性のお話です。

いつの頃からか生理前は、イライラ。だんだんとそれが制御できないほどひどくなり、他人にも物にもキレてしまう。そして自己嫌悪。訳もなく涙が止まらず、何もかもが嫌になり、全てを捨てていなくなってしまいたくなる気持ちに。そんな辛い状態が毎月やってきました。何とか改善したくて、仕事もやめ、田舎暮らしをしてみたり、健康道場のところへいったり、良いと思うのもは全て取り入れたけど改善の兆しは見えず、最後の砦という気持ちで漢方に辿りつきました。

最初にお話をお伺いした時、あまりに頑張りすぎていて体が悲鳴をあげている、と感じました。やはり「肝」の異常です。この方の場合、西洋医学的にも貧血があり、肝に蓄えられている血が少なく、さらに過労で血を消耗し続け、なかなかそれを補うことができない状況がベースにありました。そこに生理前と、緊張が加わり、「肝」の伸びやかさが失われ、緊迫し、自律神経や情緒に影響したのです。

漢方は、肝をのびやかにさせるもの、そして消耗した「血」を補うものをおのみいただきました。スタートして2ヶ月目には心身共に軽くなり、4ヶ月目にはイライラもほとんどなくなり、キープしています。そして、食べ物も自然と甘いものやお肉を食べたいと思わなくなりました。砂糖とお肉はマクロビの世界では、極陰と極陽。真逆の性質があります。食べすぎはよくありません。体のバランスがとれていくことで、食べるもののバランスも自然と良くなりました。

そして、大事なのは気持ちの事。初めてお会いした日からずっと「自分を認めること」をお話し続けました。調子が悪いのも大丈夫。うまくいかないことがあっても大丈夫。全部無駄な事はありません。白黒ハッキリつけたり、良いこと以外はすべてダメだと答えを決めてしまったり、あまり窮屈になることは心にとって良くないこともあります。心身一如、心と体はつながっています。サインを見逃さず、自分を認めることで健やかに人生を過ごしていきたいですね。

 

漢方みず堂杏林堂薬局ピーワンプラザ天王店 大森 康次

 

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執筆者 漢方みず堂
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