癌と漢方 の記事一覧

腹水の漢方【分消湯・補気建中湯】

2018年5月17日

癌と漢方

腹水の漢方【分消湯・補気建中湯】

腹水の原因は大きく2つ

腹水とは、お腹に水がたまる事で、通常20ml~50mlの腹水が何リットルも溜まってお腹が膨れる状態です。お腹がパンパンになると、内臓が圧迫され、食欲不振になったり、身動きがとれなくなり、身体がどんどん衰弱していってしまいます。

原因としては大きく2つ。

1つは炎症によるもの。胃がんや卵巣がん、がん性腹膜炎によって、血管内の成分がたくさんお腹の中に溢れてきます。たくさんの栄養成分も含むため「腹水を抜くと弱る」と言われます(最近はこの抜いた腹水の栄養分を再利用するCARTと言われる治療法も保険外ですがあるようです。)抗がん剤などで炎症を抑える治療は一方で正常な細胞も攻撃して違う炎症を起こすことにもなります。抗がん剤が肝機能を低下させることも多く、そうすると腹水はますます悪化してしまいます。

もう1つは肝硬変・腎不全・ネフローゼなどによるもの。肝臓で作られるアルブミンというたんぱく質は、血管内に水分を保持する作用があり、肝臓が弱るとアルブミンが少なくなり、水分が血管の外に漏れ出します。栄養失調の子供がお腹だけ膨れた映像をご覧になったことがあるかもしれません。栄養状態が悪いと、やはり低アルブミン症になり、腹水が発生します。この場合、アルブミンの点滴をしますが、根本的に肝臓が機能していないと、また腹水が溜まってきてしまいます。また、腎機能の低下によって水分排出がうまくできず、腹水が溜まります。

 

漢方では「鼓脹(こちょう)」

漢方の古書には、腹水は「鼓脹」という表現がされています。

単独の病ではなく、様々なつながりで発生し、体自体はとても衰弱しているのに、症状は激しく酷くなる「本虚表実、虚実交雑」で、漢方の治療方法としてもその時の状態によって、水を出す事・症状取ること(攻)に重きを置くのか、体の機能を高める事(補)に重きを置くのか、「攻補兼用」と言われる大変難しい臨床となります。

腹水が現われるということは、かなり深刻な状態ですので、その段階で漢方薬となると改善が期待できるかどうかは一か八かに近いというのが、個人的な見解です。本来であれば、そうなる前の段階で漢方薬を利用していただきたいというのが本音です。

<肝硬変からの腹水>

アルコール性肝炎や、がん治療の抗がん剤による肝機能障害などから、肝臓の機能が低下して腹水が起こっている場合、お腹にたまった水を出す事と、肝機能を少しでも改善させる事が大切です。

柴苓湯・茵蔯五苓散など利水をしながら肝機能の改善をはかる漢方薬や、便秘や下痢、お血を解消していく事も大切です。下痢があれば胃苓湯や化食養脾湯、便秘があれば大柴胡湯、お血解消には田七人参なども有効です。

ただし、柴苓湯・茵蔯五苓散・大柴胡湯はある程度体力が残っていないと使えません。その場合は、下で紹介する分消湯や補気建中湯で利水をしながら体力の回復を優先したほうがいいと思います。

<腎不全からの腹水>

腎機能が低下し、水分の排泄が機能せずに腹水が起こっているため、お腹にたまった水を出す事と、腎機能を少しでも改善させる事が大切です。

ほてりや不眠、鼻血などの熱症状があれば六味地黄丸や杞菊地黄丸、下半身のむくみや冷え、尿が出ていない時は牛車腎気丸など利水をしながら腎機能を高める漢方薬があります。胃腸の状態が悪ければ、腎気丸系が使いにくいので、その場合は人参湯+五苓散などでまずは胃腸を整えながら利水していくといいと思います。

<がん性腹膜炎など炎症からの腹水>

癌自体や抗がん剤の副作用で、肝機能・腎機能が低下していれば上記のような漢方薬があります。

ただし、末期となるとどこの機能がどうなっているのか・・・複雑で実際に現われる症候も一定せず、漢方薬もどうしたらいいのか・・・という状況も多いように感じます。

そんな時、腹水と聞いて一番に思い浮かぶのは「分消湯(ぶんしょうとう)」です。利水剤を中心に胃腸を整え、気の巡りを改善する生薬が入っています。

・温めると楽・小便少ない・パンパンに張って痛い・寒がり・食欲不振という場合に適しています。

それよりももっと衰弱し、張って痛いというよりはぶよぶよしている場合は「補気建中湯(ほきけんちゅうとう)」があります。

 

状況がかなり深刻な場合も多く、漢方薬の服用も難しい場合もあると思いますが、一人でも少しでも、何らかの手助けになればと思い記事を書かせていただきました。主治医にご相談の上、お役立ていただければと思います。


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執筆者 福田 茜
九州大学薬学部卒 薬剤師・漢方みず堂漢方専門相談員
病院やメーカーを経て、株式会社漢方みず堂へ入社。
3児の母でもあり、妊娠・出産・子育てに関する漢方経験も多数あります。

大腸癌後の便秘解消!抗がん剤治療も副作用なし!

2017年11月13日

癌と漢方

大腸癌後の便秘解消!抗がん剤治療も副作用なし!

60代の男性

病院の検査で大腸癌が見つかり、手術で大腸の一部を切り取り、残った腸管どうしを縫い合わせることに成功されました。

しかし、その後、手術の影響のためか便が硬くなり、便が出ない日が続きました。病院から処方された便秘薬も効果がなく、食べたものが腸で詰まってしまうのではと不安を感じられていました。そして、食生活もがらりと変わり、食べ物も柔らかいものが中心になりました。

さらに、癌手術後に再発や転移防止するため抗癌剤を飲むことになり、薬に対する不安や恐怖を感じられていました。

一番近くでみていた奥様も旦那様のことが心配で仕方がないご様子でした。

飲んですぐに快便に

大腸がんなどで腸の手術をした後、腸閉塞予防に使われる漢方薬と言えば、大建中湯です。大建中湯はかなり虚証(体力がない)で体が冷え切っている方に適した漢方薬です。今回のお客様は、男性で比較的しっかりとされており、冷えというよりも、腸の乾燥が目立ちました。そこで、腸を潤し、体の陰分・血分を補う漢方を飲んでいただきました。

漢方薬をスタートしてすぐに便がすっきりでられ、驚かれていました。その後もずっと快便でした。

また、癌の再発や転移防止のため抗がん剤の服用がスタート。直後、身体の痺れはありましたが、すぐに良くなり、目立った副作用もなく、CT検査や血液検査等でも異常がないため約6カ月で抗癌治療が終わりました。この間、自然治癒力・免疫力を高めるため、霊芝などの上薬を濃縮したものを飲んでいただいていました。

抗がん剤を始めた頃は大変ご不安や恐怖も強かったですが、その後異常もなく、今では安心して食事をとられ、趣味である読書や映画鑑賞をしておられます。

一番の薬はお互いを思う心

奥様は旦那様のために食事や身の回りのお世話をしたり、一緒に映画や旅行に行ったりと楽しいこと、嬉しいことを共有されました。

旦那様は奥様のため好きだったお酒を断たれ、奥様に心配させないようにいつも堂々とされ、奥様のことを気遣うのが印象的でした。

自分のためではなく、相手のためだからこそ何かできないか真剣に考え、相手のために行動ができるように感じました。

これからもお二人の大切な時間を過ごすことができるように、お支えします。

 

漢方みず堂同仁堂下通店 中村 慎也

 


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執筆者 漢方みず堂
株式会社漢方みず堂は福岡、北九州、佐賀、熊本、那覇、浜松に展開する西日本最大の漢方相談薬局です。

抗がん剤の副作用③吐き気・嘔吐の漢方薬の使い分け

2017年9月15日

癌と漢方

抗がん剤の副作用③吐き気・嘔吐の漢方薬の使い分け

2017/4/24 日経新聞より

「漢方薬、がん治療に活用 副作用和らげ減薬に」という記事が掲載されました。

漢方薬を抗がん剤の副作用や高齢者医療などに効果的に使おうと、続々と国の実行計画や研究会が発足しています。

記事内では、下半身の冷えで抗がん剤治療を続けられなくなった方が牛車腎気丸を飲んで続けられるようになった例や、咽頭がんの放射線治療の副作用で唾液が出にくくなった方が麦門冬湯を飲んで改善した例などが紹介されています。

一方で、最後には全ての医科系大学で漢方に関する講義が行われているものの、漢方医学の専門家が教えるケースはまだ少なく、専門的な人材の育成が課題と問題提起もしてあります。

漢方薬の正しい使い方

漢方薬には漢方薬の見立てがあり、西洋医学とは全く違うことに私たち漢方薬剤師も最初はとても驚きました。

ザ・理系の頭には、なんとも曖昧な東洋医学の見立てが、とても難解で、怪しく感じたものです。

木を見て森はわからない西洋医学の頭をまるっきり、東洋医学の頭「森を見るけど木のことはよくわからない」に変える必要があります。

現在臨床で使われている漢方薬も、どうしても「この症状にはこの漢方」「この病気にはこの漢方」という西洋医学的使われ方がしています。しかし、同じ症状でも、その人の体質によって違う漢方を使い、同じ病気でも全く違う漢方を使うのが本来の東洋医学です。

抗がん剤の副作用「吐き気・嘔吐」

上記のような理由で、副作用に漢方薬が使われているものの、まだまだ画一的な使い方しかされていません。

副作用軽減に良く使われている漢方薬に他にも選択肢があることを抗がん剤の副作用①手足のしびれには牛車腎気丸だけじゃない抗がん剤の副作用②口内炎には半夏瀉心湯以外にも色々~飲み方にもコツ~でご紹介してきました。

今回は「吐き気・嘔吐」に使う漢方薬です。

恐らく一番吐き気で使う漢方薬は「小半夏加茯苓湯」だと思いますが、私個人の意見としては抗がん剤治療時にはあまり出番は少ないのではないかと思っています。

小半夏加茯苓湯は妊娠中のつわりで使うファーストチョイスの漢方薬で、主に胃腸の水分を抜くものです。燥証や陰証(口の中がパサパサ、脱水など)熱証(口内炎など)には使いません。

以下に吐き気・嘔吐の時に使う漢方薬の使い分けをご紹介します。

・唾液が出る、痰が多く出る、胸の痞えなどがあれば小半夏加茯苓湯

・唾液が出る、痰が多く出る、食後苦しまずに吐く、水を吐く、げっぷ、喉の痞え感・閉塞感があれば茯苓飲合半夏厚朴湯

・唾液が出る、痰が多く出る、食後の眠気、手足の冷え、下痢・便秘、膨満感があれば六君子湯

・長引く下痢、口渇、唇乾燥、手足のほてり、むくみがあれば参苓白朮散

・口内炎、お腹がゴロゴロなる、下痢、げっぷがあれば半夏瀉心湯・生姜瀉心湯・甘草瀉心湯

・口渇、唇乾燥、不安感、動悸、不眠、汗を異常にかく場合は柴胡桂枝乾姜湯

・疲労倦怠感が強い、微熱、やる気がない、貧血の場合は補中益気湯

精神的嘔吐にも漢方薬は有効

特に、茯苓飲合半夏厚朴湯・半夏瀉心湯・生姜瀉心湯・甘草瀉心湯・柴胡桂枝乾姜湯・補中益気湯は精神的な吐き気にも大変有効です。

胃腸の働きを整えておくことは、抗がん剤治療の効果やその後の生存率にも大きく影響すると思います。

抗がん剤治療中に限らず、食事がとれなくなると、人間は急激に弱っていきます。それが分かっていながら食べられないご本人が一番辛いと思いますが、食事を頑張って作っていらっしゃるご家族の辛さも想像に難くありません。

実は200種類以上ある漢方薬の中で、一番種類が多いのは胃腸症状に使うものです。上記に挙げた以外にも色々漢方薬はありますので、1つ飲んで効果がなかった場合でも、あきらめずにご自分に合ったものを探してみてください。

 

※関連記事

抗がん剤の副作用①手足のしびれには牛車腎気丸だけじゃない

抗がん剤の副作用②口内炎には半夏瀉心湯以外にも色々~飲み方にもコツ~

※ 小半夏加茯苓湯に関する記事

3人3様の妊娠悪阻(つわり)の傾向と対策


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執筆者 福田 茜
九州大学薬学部卒 薬剤師・漢方みず堂漢方専門相談員
病院やメーカーを経て、株式会社漢方みず堂へ入社。
3児の母でもあり、妊娠・出産・子育てに関する漢方経験も多数あります。
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